声･話し方･表情･しぐさ

■声はトレーニングによって若返る

いつのまにか年をとってしまった…ある一定の年齢になると誰もが感じることです。
では私たちは、いったいどこでそれを感じるのでしょう。
肌の衰えなど見た目の変化はもちろん、体力や筋力の低下も「年」を感じる要因となります。
また「最近、物忘れが…」というように、記憶力や思考力など脳や心の状態も関係しています。

なかでも意外と見過ごされがちなのが「声の老化」。
かすれたり、ハリや声量がなくなったり、滑舌がわるくなり聞き返されることが多くなったりと、声の力も加齢と共に衰えていきます。
声の老化は、生理学的には声帯筋と顔の筋肉（表情筋）の筋力低下が原因の一つと考えられます。
ゆえに他の筋肉と同じようにその２つの筋肉を鍛えれば、声の若返りも可能ということになります。まさに「声の筋トレ・声トレ」ですね。

トレーニングによって若々しい声がよみがえれば、周囲の人に与える印象は大きく違ってきます。
「ありがとう」や「お願いします」など、その声にのせる言葉にもおのずと力が宿るようになり、自分の考えや気持ちもずっと伝わりやすくなります。
プライベートはもちろん、ビジネスの現場などでもコミュニケーションの質が向上し、あらゆる人間関係が好転していきます。

■声のアンチエイジングがもたらす特別な効果

声の若返りは、周囲の人に良い印象を与えるだけではなく、さらにより本質的かつ特別なアンチエイジング効果をもたらしてくれます。
それは、自分の声を一番聞いている人は誰なのかを考えると分かります。
家族、友人、近くにいる人…その誰よりも最も自分の声を聞いているのは、実はあなた自身。自分の声の最大の聞き手は自分自身なのです。

その声が若々しく感じられれば、まず自分の声が好きになります。自信が回復し気持ちや表情まで明るくなります。話すことや歌うこと、人と関わることが楽しくなります。
特別な効果とは、周囲の人からも若く見られるうえに、自分自身で直接それを実感できるようになるということ。
それゆえ「声のアンチエイジング」は、「声から始まる心と体全体のアンチエイジング」へとつながっていきます。

美容や服装に気をつかっているのに、声（声帯筋・喉）のケアは怠りがち、という方が多くいらっしゃいます。非常にもったいないと感じます。
肌や筋肉と同じように、声帯筋もしっかりとケアをしなければ、どんどん衰えていきます。
若々しい声、健康な喉を維持するためには、食べ物や生活習慣の改善も大切な要素になります。

■若々しさ・美しさ・健康維持と喉との深い関係

喉は発声の他、呼吸や嚥下（飲み込む）という重要な役割も担っています。それが高齢になり機能が低下すると、嚥下障害から肺炎や窒息など重大な病気を誘発しやすくなります。
そうした健康上のリスクも声帯筋・喉を鍛えることによって大幅に減らすことができます。

さらにもう一つ、声帯筋・喉が強化されれば、自然と姿勢も美しく、良くなっていきます。
私たちは日常生活やスポーツなど気合を入れたい場面で掛け声をかけたりしますが、これは喉の動きと体全体の力の入り具合や集中力などが深く関係しているということを本能的に知っているためです。詳しくは、また別の機会にお話しできればと思います。

テレビ局のアナウンサー時代から今に至るまで、私は声のプロフェッショナルとして長年にわたって喉のトレーニングやケアについての勉強や実践を続けてきました。
現在も大学や専門学校などで就職を控えた学生たちに声やしぐさの大切さ、その使い方を教えています。
そのメソッドを抗老化というテーマで再構築したプログラムが、このサイトのタイトルともなっている「声としぐさから始まるアンチエイジング」です。

■人間関係を好転させる話し方のコツ

感謝であれ、依頼や指示であれ、何かメッセージを伝えるためには、声と共に「話し方」も重要なカギとなります。
伝える内容や相手との関係性にもよりますが、多くの場合できるだけ簡潔に、そして分かりやすい言葉と適切な順序で話すことがポイントです。
営業職や教師など、トーク力やプレゼン力が要求される方であれば、この「話し方」のテクニックを身につけているかどうかによって、その実力に大きな差がつきます。

たとえば次のようなケース。いずれも「大丈夫です」と答えてしまいがちではありませんか？

＜予約の電話を受けたとき＞
1.「〇△日は予約できますか？」→「はい、大丈夫です」

＜試着の後に＞
2.「この服、サイズはあっているかしら？」→「はい、大丈夫です」

＜近所の方に声をかけられたとき＞
3.「体調はいかがですか？」→「はい、大丈夫です」

＜食べ物の好みを聞かれたとき＞
4.「パパイヤはお好きですか？」→「はい、大丈夫です」

「大丈夫」は誰もが簡単に使える便利な言葉ではありますが、できれば次のように具体的に答えたほうが相手の納得度や信頼感、好感度はアップします。

1.「はい、お受けできます」
2.「はい、ぴったりでお似合いですよ」。
3.「はい、おかげさまで元気です」
4.「はい、私の好物です」

1.「はい、お受けできます」
2.「はい、ぴったりでお似合いですよ」。
3.「はい、おかげさまで元気です」
4.「はい、私の好物です」

日常生活においても、話し方の良し悪しは人間関係の良し悪しに直結する要素となります。
丁寧に話しているつもりでも、「あの人は話が長い」とか「まわりくどい」と感じさせているとしたら、とても残念なこと。
同じ内容を伝えるにしても、ちょっとした「話し方のコツ」を身につけておくだけで、「あなたの話はわかりやすい」「とても話しやすい」と、印象が大きく転換するようになります。

■伝わる話し方・10のポイント

① “ゆっくり”と“早口”のメリハリを
② 大きな声と小さな声の変化
③ 途中の「間」が勝負
④ 言葉の終わりはハッキリと
⑤ 聞き手が頭の中で絵を描けるような言葉で
⑥ 一つのものも色々な切り口あり
⑦ 数字は大事な表現法
⑧ 語彙を増やそう
⑨ 五感を使って話すできるだけ短いセンテンスで

■豊かな表情をつくる表情筋

「表情や笑顔の大切さはわかるけど、役者じゃないから意識して笑顔を作るのは難しい」と思われるかもしれません。
たしかに写真を撮るときなど「笑って」「チーズ」といわれても、どうしてもぎこちなくなったりするものです。
普段からあまり笑わない人であれば、なおさらそうなってしまうでしょう。

笑顔や表情は、顔の筋肉・表情筋によって作られます。
他の筋肉と同じように表情筋も加齢によって衰え固くなっていきますが、その表情筋を柔軟に保つことができれば、笑顔も自然に柔らかくなっていくでしょう。

豊かな表情、輝く笑顔を作るためにも、また若々しい顔でいるためにも、日ごろから表情筋を動かすトレーニングをしておくことが大切です。

■心を映し出す表情

見た目よりも心が大切──よくいわれることです。
多くの人が同意しつつ、「そうはいっても見た目で左右されることが多いのも現実…」という声も聞こえてきそうです。
私は「見た目も心も大切」と考えています。
なぜならばその人の内面は外見として表れるからです。

もちろんここでいう見た目とは、美人だとかイケメンというような「顔の形」というより「表情」のこと。
どんなに整った顔をしていても、そこに何も表情がなかったら、かえって冷たい印象を与えかねません。
一方、笑顔がはじけていたり、まなざしが優しかったり、寄り添っている感じや誠実さが伝わるような表情であれば、それだけで人を魅了する力があります。
人気のある役者は単に顔が整っているというよりも、まず豊かな表情を作れる人です。

喜んでいるのか悲しんでいるのか、楽しいのかつまらないのか、好意的か警戒しているのか…など、私たちは常に相手の表情からその人の内面を感じ読み取っています。
口から出る言葉よりも、ホンネはその表情のほうに表れるということを知っています。
「表情」とは文字通り「表にあらわれる情」だと考えれば、それは当然のことかもしれません。

表情とは、まさに心を形にしたものということもできます。
相手に好感をもってもらうためにも、そして自分の気持ちを正しく伝えるためにも、いま自分がどんな表情なのかを意識することはとても大切です。

■笑顔が生み出す幸せの連鎖

あらゆる表情の中で最も大切なのは、いうまでもなく笑顔にほかなりません。
静かに微笑むだけで、相手に好意を伝え、緊張をほぐし、心理的な距離を縮めることができます。

笑顔がもつ伝染力も見逃すことができません。自然な笑顔を向ければ、たいていの場合、相手も笑顔を返してくれます。
また笑顔は相手を幸せな気持ちにするだけではなく、自分自身の心も明るくしてくれます。

嬉しいときに笑顔になるのは当たり前のことですが、「まず笑ってみる→なぜか心が明るくなる」ということも、「感情フィードバック理論」として心理学的に確認されています。
ようするに「幸せだから笑う」というより「笑うから幸せになる」ということ。これは単に「そういう気持ちになる」というだけの思い込みではありません。

笑顔が多い人はストレスホルモンの分泌が少ないという研究結果もあります。
笑顔によって心も体も健康になり、人間関係が好転し、その結果さらに笑顔が増え、人生全般が幸福になっていくという好循環が続くようになります。

■しぐさはメッセージ

「目は口ほどにモノをいう」という諺がありますが、同じように「手もまた口ほどに──あるいはそれ以上に──モノをいう」ということも少なくありません。
会話をしているときなど、たいていの場合はそこに何かしらの身振り手振りが伴います。
全く動かないという場合もあるかもしれませんが、それはそれである意味、強い意味をもったりします。

役者の皆さんは、セリフだけでは伝えきれない心の動きや深い思いを目線や手指の微妙な動きで表現します。
見ている人は、それによってその人物の心の奥を感じとります。
そういった演技や演出が成立するのは、実生活においても私たちがそれを普通に感じているから、ということにほかなりません。

■しぐさと所作

普通、私たちは「どんなしぐさをしようか…」と考えることはあまりありません。
その場の流れにあわせて自然に手や体を動かしています。
無意識のうちに行われていると思うからこそ、そこに内面やホンネが表れていると感じます。

一方、しぐさと似た言葉に「所作」というのがあります。
しぐさが無意識の繊細な動きであるのに対して、所作はどちらかというと意識的に行われる礼儀や美意識を伴う動作というような意味になります。

同じように、意識的に行われるより大きな動き、あるいは全身的な動作として「身振り手振り」や「立ち振る舞い」というのもあります。
一般的には、こうした体の動きすべてを含めて「しぐさ」と呼ぶ場合もあります。私が大切だと考える「しぐさ」も動作全般を含む広い概念のことになります。
なぜならば、それらはすべて相手に何らかのメッセージを伝えることになるからです。

■エレガントなしぐさを習慣にするために

前述したように、狭い意味でのしぐさは無意識下で行われるものではありますが、それを所作のように礼儀や美意識に合わせて動かすということを続けるうちに、自然に習慣として行えるようになります。
初めは意識的な練習が必要ですが、自転車の運転と同じでいずれ何も考えなくても誰もができるようになります。

軽いしぐさであれ、大胆な身振り手振りや立ち振る舞いであれ、相手に好印象を与えられるようになれば、プライベートでもビジネスの現場でも、コミュニケーションの質はまったく違ってきます。
微妙な心の動きをしぐさによって表現できる人は、知的でスマートな印象を与えるでしょう。

儀礼的な言葉を使わずとも、誠実さや優しさ、育ちの良さ、相手に対する気づかいや好意、感謝の気持ちが伝わります。
若々しくあるためにはファッションやメイクも大切ですが、それ以上にこうした自然なしぐさを身につけていることのほうが重要なポイントになります。